第一回 問10 取得時効

XはYに対し、自己所有の甲建物を売却し、代金と引換えにYに甲建物を引き渡したが、その後にZに対しても甲建物を売却し、代金と引換えにZに甲建物の所有権登記を移転した。この場合におけるYによる甲建物の所有権の時効取得に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.Yが甲建物をWに賃貸し、引き渡したときは、Yは甲建物の占有を失うので、甲建物の所有権を時効取得することはできない。

2.Yが、時効の完成前に甲建物の占有をVに奪われたとしても、Vに対して占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合には、Vに占有を奪われていた期間も時効期間に算入される。

3.Yが、甲建物の引渡しを受けた時点で所有の意思を有していたとしても、XZ間の売買及びZに対する登記の移転を知ったときは、その時点で所有の意思が認められなくなるので、Yは甲建物を時効により取得することはできない。

4.Yが甲建物の所有権を時効取得した場合、Yは登記を備えなければ、その所有権を時効完成時において所有者であったZに対抗することはできない。

問10 解答

正解 2 (難易度 B)

1.× 解説:賃貸によっても占有が継続されるため、Yは甲建物の所有権を時効取得することが可能である。民法162条2項により、占有は賃貸によっても継続されることが規定されている。

2.○ 正しい:Yが占有回収の訴えを提起して占有を回復した場合、Vに占有を奪われていた期間も時効期間に算入される。民法168条1項により、時効の中断が解消された場合、中断前の時効期間が算入されることが規定されている。

3.× 解説:YがXZ間の売買及びZに対する登記の移転を知ったとしても、Yが甲建物を時効により取得することができる。民法167条1項により、占有者が権利を有すると信じて権利の対象物を占有した者は、20年間占有し続けた場合、その権利を取得することが規定されている。

4.× 解説:Yが甲建物の所有権を時効取得した場合、所有権をZに対抗するために登記は必要ではない。民法165条により、所有権を取得した者は、登記をしなくてもその権利を他人に対抗することができる。ただし、不動産登記法22条により、登記がされていない場合、第三者との間での権利の対抗が制限される場合がある。

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