令和5年度問31 相殺に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

令和5年度本試験

問31 民法 

1 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、その第三債務者が、差押え後に他人の債権を取得したときでなければ、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。

2 時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、当該債権を自働債権として相殺することができる。

3 相殺禁止特約のついた債権を譲り受けた者が当該特約について悪意又は重過失である場合には、当該譲渡債権の債務者は、当該特約を譲受人に対抗することができる。

4 債務者に対する貸金債権の回収が困難なため、債権者がその腹いせに悪意で債務者の物を破損した場合には、債権者は、当該行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできない。

5 過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者は、その被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することができる。

問31 解答

正解 5 (難易度:B)

1.○ 正しい。民法の規定により、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、相殺をもって差押債権者に対抗することができます。ただし、差押え後に他人の債権を取得した場合は、その債権による相殺は認められません。

2.○ 正しい。時効によって消滅した債権でも、その消滅以前に相殺適状にあった場合、債権者はその債権を自働債権として相殺することができます。これは民法の規定によるものです。

3.○ 正しい。相殺禁止特約が付された債権を譲り受けた者が当該特約について悪意または重過失である場合、債権の譲渡債権者はその特約を譲受人に対抗することができます。これは、譲渡人が債権者に対して相殺を禁止する意思を持っていたことを尊重するためです。

4.○ 正しい。悪意で他人の物を破損した場合、その行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできません。これは、不法行為による債務が故意によって生じたものであるため、相殺が認められないという民法の原則に基づいています。

5.× 誤っている。過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者が被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することは、原則としてできます。しかし、損害賠償債務が特別な重みを持つ人の生命や身体に関するものであるため、相殺が社会通念上許されない場合があるとも考えられます。この選択肢は一般論として誤っているとは言えませんが、実務上や特定の事案においては相殺が不適当と判断されることがあります。

不正解の選択肢5は、相殺の適用に関する一般的な原則を誤って解釈している点で間違っています。特に、人の生命や身体に関する損害賠償債務に関しては、相殺を制限するべき特別な事情が存在する可能性があるため、一概に相殺が可能であるとは言えないのです。

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