令和5年度問29 Aが家電製品の販売業者のBに対して有する貸金債権の担保として、Bが営業用動産として所有し、甲倉庫内において保管する在庫商品の一切につき、Aのために集合(流動)動産譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)を設定した。この場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。

令和5年度本試験

問29 民法

1 構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。

2 本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。

3 本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。

4 甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。

5 甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。

問29 解答

正解 5 (難易度:C)

1.○ 正しい。集合動産に関して、その構成部分が変動しても、種類、場所および量的範囲が指定されていて目的物の範囲が特定されていれば、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができます。占有改定の引渡しを受けることで対抗要件が具備されるのは、この場合においても同様です。

2.○ 正しい。集合動産譲渡担保権が設定されている場合、新たに同一の集合物に属する物が加えられたとしても、集合物としての同一性が保持されている限り、新たに加えられた物(本例では「乙」)にも担保権の効力が及びます。

3.○ 正しい。通常の営業の範囲において、Bは在庫商品を処分する権限を有しています。これは、譲渡担保権が設定されている場合でも、営業用動産を保有する者がその動産を通常の営業活動の中で流動的に処分することが可能であることを認めるためです。

4.○ 正しい。Bが丙の売買代金を支払わない場合であっても、Aが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは動産先取特権を行使できません。これは、占有改定によりAの権利が確定し、第三者に対抗できる状態にあるためです。

5.× 誤り。所有権留保特約が付された丁に関しては、Dが所有権を留保しています。Bが履行期日までに代金を支払わなかった場合、Dの所有権が留保されるため、Aが占有改定による引渡しを受けていたとしても、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することはできません。Dの所有権留保が優先します。これは、所有権留保が強力な権利保護手段であると解されるためです。

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