問20 行政法
1 落石事故の発生した道路に防護柵を設置する場合に、その費用の額が相当の多額にのぼり、県としてその予算措置に困却するであろうことが推察できる場合には、そのことを理由として、道路管理者は、道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れ得るものと解するのが相当である。
2 事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたことは、道路の安全性に欠如があったといわざるをえず、それが夜間の事故発生直前に生じたものであり、道路管理者において時間的に遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことが困難であったとしても、道路管理には瑕疵があったと認めるのが相当である。
3 防護柵は、道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために設置されるものであり、材質、高さその他その構造に徴し、通常の通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものであったとしても、当該転落事故の被害者が危険性の判断能力に乏しい幼児であった場合、その行動が当該道路および防護柵の設置管理者において通常予測することができなくとも、営造物が本来具有すべき安全性に欠けるところがあったと評価され、道路管理者はその防護柵の設置管理者としての責任を負うと解するのが相当である。
4 道路の周辺住民から道路の設置・管理者に対して損害賠償の請求がされた場合において、当該道路からの騒音、排気ガス等が周辺住民に対して現実に社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしたことが認定判断されたとしても、当該道路が道路の周辺住民に一定の利益を与えているといえるときには、当該道路の公共性ないし公益上の必要性のゆえに、当該道路の供用の違法性を認定することはできないものと解するのが相当である。
5 走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により自動車の運転者等が死傷するような事故が発生する危険性は高いものではなく、通常は、自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより死傷事故を回避することを期待することができるものというべきであって、金網の柵をすき間なく設置して地面にコンクリートを敷くという小動物の侵入防止対策が全国で広く採られていたという事情はうかがわれず、そのような対策を講ずるためには多額の費用を要することは明らかであり、当該道路には動物注意の標識が設置され自動車の運転者に対して道路に侵入した動物についての適切な注意喚起がされていたということができるなどの事情の下においては、高速道路で自動車の運転者がキツネとの衝突を避けようとして起こした自損事故において、当該道路に設置または管理の瑕疵があったとはいえない。
問20 解答
正解 5 (難易度:B)
- × 費用の多額さや予算の困難さは、道路管理者の賠償責任を免れる理由としては通常認められません。道路管理者には、安全な道路環境を確保する法的義務があり、その責任は財政的な困難さによって免責されるものではありません。したがって、この記述は道路をめぐる国家賠償の法理に照らして妥当とはいえません。
- × 一度取り消された不利益処分について、道路管理者が同一の事実に基づいて再び同じ不利益処分を行うことは、原則として裁判所の判断を無視する行為とみなされ、許されるものではありません。新たな判断を下す際には、以前の裁判所の判断を十分に考慮し、新たな事実や状況に基づく必要があります。
- × 防護柵の設置は、通常の通行時の安全性を確保することを目的としていますが、特に幼児などの危険判断能力が乏しい者に対しても一定の安全性を確保する義務が管理者にはあります。ただし、その安全性は通常予測される範囲内での行動に対して求められるもので、すべての可能性に対して完全な安全を保証するものではありません。
- × 道路が周辺住民に一定の利益を与えているとしても、それが社会生活上受忍すべき限度を超える被害をもたらしている場合には、道路の設置・管理者は損害賠償責任を負う可能性があります。公共性や公益上の必要性があっても、それによって発生する被害が過大であれば、道路管理者は責任を問われることがあります。
- ○ 自動車が小動物と接触して起こる事故について、通常は適切な運転操作で回避できると期待されます。また、全国で広く採られている対策がない、多額の費用がかかる、動物注意の標識が設置されているなどの事情を踏まえると、道路管理者がキツネとの衝突を完全に防止するための対策を講じる義務は限定されることがあります。この記述は、裁判所が過去に示した判断の理論に照らして妥当です。
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